DAI-SONの二次創作

二次創作の短編小説を載せていきたいと思います。

ブレイブソードxブレイズソウル 二次創作 「追憶のゴーストノート」

フライパン「ねぇダーリン」
マスター「なんだ。」
若きマスター、ロウドは飲み干したジョッキをテーブルに叩きつける。
フライパン「ダーリンはどんな人でも、どんな魔剣ちゃんでも助けちゃう、すごい人よね。」
ロウド「熱くなりやすいだけさ。」
そうは言いつつも、ロウドの表情は照れ臭そうだ。
フライパン「でもダーリン。ブキダスからの魔剣ちゃんじゃあ飽きたらず、捨てられた魔剣ちゃんにまで、手を出すタ・ラ・シっぷりにはちょっと感心しないのよね。」
ロウド「人聞き悪いなぁ…そんなつもりはないさ。ただ、可哀想だから救ってやりたいと思うだけさ。」
フライパン「本当に?本当に?本当の本当に?本当の本当の本当の」
ロウド「本当だってば。大体、落ちてる魔剣なんてそう沢山あるものじゃないだろう。」
フライパンが詰め寄ることはいつものこと。
鼻先を指で押し返す。
フライパン「ふーん…確かにそうね。」
今日は嫌に引きが早いな、いつもならもう少ししつこく来るのに、とロウドは不可解に思う。
ロウド「なんだ、今そんな話をするってことは、訳ありなのか?」
フライパンはいろめかしいスマイルをロウドにおくる。
フライパン「やっと気づいてくれたのね。」
フライパンはクエストボードを指差す。
フライパン「それに関してのクエストが貼られていたはずだから、ついでに報酬ももらっちゃえば?」
ロウド「ほぉん、どれどれ。」
フライパンに案内されるがまま、クエストボードを目でおう。
ロウド「S級の魔剣の総索か…珍しい依頼ではないな。」
フライパン「そうとも言い切れないわ。彼女、かなりの距離を移動しているらしいのよ。暴走魔剣なら、台風の目のように災害を起こしながらゆっくり移動することはあっても、旅をするように"わざわざ人が通るところ"を"なにも起こさずに"移動しているんだから普通じゃないわ。」
ロウド「確かに…暴走魔剣にしては理性的だが…依頼には暴走しているとは書かれていないぞ。」
フライパン「確かにそうね。でも、その場合は、持ち主が探している事が多いわ。でも、この依頼は魔剣機関直々のもの…」
ロウド「報酬が~…魔宝石ダイヤ100個と?錬金素材100,000個とぉ?エトセトラエトセトラ…必死すぎるだろう…」
フライパン「興味ある?」
ロウド「逆に怖いな…」
フライパン「あら、もっとバ…勇敢だと思ってたのに。」
ロウド「お前なぁ…はいはい。行けばいいんでしょ」
ロウドはカウンターへ行き、クエストを受注する。
フライパン「私がいないところでダーリンが知らない女に会ったら困るもの。探して先に潰しておくべきだわ。」
ロウド「ん?何か言ったか?」
フライパン「いえ、何も。準備はしっかりね。お弁当作っておくわ。」
ロウド「ピクニック気分かよ…」

ロウドは最終目撃地の周辺の、街道沿い林を捜索した。
案の定、魔力に釣られてモンスターが群がっていたが、大した驚異ではなかった。
フライパン「あくびが出るわね…」
ロウド「S級魔剣の付きまといにしては弱すぎる。」
暴走魔剣鎮圧の定石に従い、戦力が崩れたことを確認し、一番モンスターが群がっている部分に踏み込む。
ロウド「居たぞっ‼あれか?」
フライパン「典型的な魔典型ね。」
落ちていたのは1冊の本。
真っ白で、まっさらで、その純白は今にも透明になってしまいそうなほどだった。
儚い光が、その本を優しく包み込んでいる。
ロウド「依頼通り、暴走している感じは無いな。」
フライパン「嫌に落ち着いているわね…」
恐る恐る近づくが、その警戒とは裏腹に、易々と接触を赦されてしまう。
拾い上げると仄かに温かい。
が、違和感があった。
ロウド「何の属性も感じない。」
フライパン「本当ね。まぁ、例外中の例外みたいな魔剣だし、何か秘密があるんでしょうね。」
普通なら、S級ほどの魔剣ともなれば、何らかの属性を持っているはずなのだ。
B級以下の魔剣でさえ、鑑定すればしっかり属性が割り振られている。
ロウド「アンロックしてみよう。話ができる相手かもしれない。」
フライパン「了解。」
フライパンはロックされた状態に戻る。
二本も三本もアンロック出来る才能を持つものは一握りだ。
ロウド「…コード識別……アンロック‼」
目の前には、白髪の少女が座り込んでいた。
まるで、アンロックする前からそこに居たように。
少女「私は魔典"ゴーストノート"…世界の記憶をその身に記す者…」
ロウド「よろしく、ゴーストノートちゃん。この魔典は世界の記憶なのか。ふーん。」
ロウドは本に手を掛ける。
ゴーストノート「だめっ‼」
ロウド「ええっ‼」
先ほどまで、風が吹くほど小さな声でしゃべっていたのに、急に声を荒げた。
ゴーストノート「その本を開いてはだめ。」
ロウド「何故?」
ゴーストノート「世界の記憶は誰も知るべきではないから。いや、知らせてはならないから。」
ロウド「ちょっとくらいならいいじゃん。」
ゴーストノート「だめったらだめ‼」
足元の草をぎゅっと握って、頬を膨らませる。
ロウド「わかった。わーかったよ。」
そう返事すると、ホッとした顔をする。
頑固な魔剣には、一旦折れてやるのが彼のやり方だ。
フライパン「単純ね。開いてやれば?」
ロウド「そんなこと言うなよ。」
ロウドはゴーストノートをロックして、ギルドに戻ろうとした。
ゴーストノート「何処へ行くの?」
ロウド「ん?お前を魔剣機関に届けて、クエストの達成。」
ゴーストノート「嫌‼」
ロウド「おいおい。そうやって嫌がるから追いかけ回されるんだぞ。」
ゴーストノート「嫌…みんな私を読もうとしてる…」
ロウド「そりゃ困ったな。でも、本なら読まれなきゃ存在意義が無くないか?」
ゴーストノート「鍵を…」
ロウド「?」
ゴーストノート「どうか私を解き放つ鍵を持つ魔剣使いの元へ…」
ロウド「俺じゃダメなのか。」
ゴーストノート「だめ…」
ロウド「即答かよ…」
こいつが何者かはいまいちよくわからない。
が、これで不可解な移動の真相は明白になった。
旅をしていたのは、その"鍵"とやらを持つ魔剣使いを探すためだったのだ。
しかし、今までどうやって移動していたんだろう?
モンスターに持っていってもらっていたとか?
まさかね…
???「そこのお前‼」
ロウド「げっ‼?EDENか‼」
EDEN魔剣使い「その白い魔典を捨て、速やかに去れ‼」
ロウド「やーなこった‼お前らが読んでいい本じゃないんだとさ‼」
EDEN魔剣使い「何を訳のわからんことを…」
ロウド「追い払うぞ‼フライパン‼アンロ…」
ゴーストノート「去るのはお前だ‼」
ロウド「ちょ…勝手に…」
ゴーストノートは自らアンロックし、光の息吹きを吐いた。
EDEN魔剣使いはその光に悶え苦しんだ。
EDEN魔剣使い「何だこれは…?おい‼」
息吹きが風に流れても、EDEN魔剣使いはうろたえ続ける。
EDEN魔剣使い「クソっ、何だこの光は‼おい‼だれか‼だれか居るか‼この光をどうにかしてくれ
ー‼」
ゴーストノート「今のうちだよ‼」
ロウド「お、おう‼」
ロウドは一目散に走り出した。
街道に出てはまずいので、林のなかを進んでいった。

ロウド「はぁ、はぁ、撒いたか?」
フライパン「大丈夫。すぐに追い付かれるようなことはないと思うわ。」
ロウド「ふぅ。EDENの勇者様に遭うとろくなことにならねぇ。」
ロウドは周囲のなかで比較的大きな木に寄りかかる。
そして、ベルトにくくりつけていたゴーストノートを再び手に取った。
フライパン「読んじゃうの?」
ロウド「馬鹿野郎。そんなわけあるか。」
ゴーストノート「では、どういった御用で?」
ロウド「いやぁ、魔剣としてどう使えばいいのかわからないんだよ。普通の魔典は"開いて"術式を展開するわけだろ?なのに、さっきの奇襲にはそれを必要としなかった。」
ゴーストノート「杖棒のように祈りを捧げるのよ。」
ロウド「はえ~…変なの。」
ロウドは腕組みをしてううんと唸る。
ゴーストノート「今度はなに?」
ロウド「だぁー‼訊きたいとこがありすぎる‼」
フライパン「シ‼声が大きいわよ。」
ロウド「わ、悪い。」
忠告を聞き口を閉ざすと、ガサガサと草の根を掻き分ける音が聴こえる。
ロウド「ここもそう安全とはいかないか。」
音とは反対方向に、屈んだまま歩き出す。
ロウド「色々な興味は後回しにして大事なことを聞くが、その"鍵"を持つ奴って、どういう奴なんだ?わからなきゃ届けられない。」
ゴーストノート「ごめんなさい。覚えていないの。開けて欲しいのは"本当の私"への鍵だから…」
ロウド「えぇ…無茶ぶりじゃないか…」
ロウドは頭が痛い気持ちだった。
やれやれ今さら約束を破ろうものなら、あの光の餌食だろう。
ひとりでにアンロックされるほど厄介なものがあるだろうか…
ゴーストノート「でも大丈夫。その鍵を持つ人間の気配は近い…鍵穴が哭いているから…」
フライパン「穴が哭いてるなんて下品な女。」
フライパンの他所の女への嫌味はいつものことなので、ロウドはスルーを決め込む。
ロウド「…まぁ、要するにその気配を追えばいいんだな?」
ゴーストノート「そう。そうなのだけど…」
ガサガサという音が近づいてくる。
ゴーストノート「それが今の私の願いなのかと言われたら、よくわからない。」
音は勢いを増して、更に近づいてくる。
ゴーストノート「今の私の願いは、ただ───────」
ロウド「すまねぇ‼その話は後だ‼」
EDEN魔剣使い「居ました‼あそこです‼」「のがすなぁ‼」「一気にかかれ‼」
ロウド「囲まれていたか‼」
ゴーストノート「行くよ‼」
光の息吹きが再びEDEN魔剣使いに襲いかかる。
EDEN魔剣使い「気を付けろ‼その霧は"視覚"と"聴覚"を奪うぞ‼」
EDEN魔剣使いは斧型の魔剣を取り出す。
EDEN魔剣使い「夜風の戦斧"フォレストオウル"‼アンロック‼」
ロウド「ぐっ‼」
暴風が草木を凪ぎ払い、ロウドに押し寄せる。
ゴーストノート「小さな"鍵"すら持てないような人間は、こんなにも安易だ。」
うろたえるロウドに対し、息吹きは風など関係なく、EDENの魔剣使いを覆い始めた。
ゴーストノート「そうね…刃向かうなら魔鍵くらい手にしてきたらどう?」
ロウド「うっし、今のうち‼」
EDEN魔剣使い「あっ、おい‼待て貴様‼…ぐっ音が聞こえなく…なっ…て…」
ロウドは走り続け、海岸沿いに出た。
日差しのせいでひどく暑いため、日陰に倒れ込んだ。
ロウド「あぁ、はぁ、ここまで来れば…もういいだろ…」
汗が喉元を滝のように流れる。
声が裏返り、情けない声を出している。
フライパン「ダーリン、はい深呼吸。」
ロウドは大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
ロウド「…ったく。たまったもんじゃないぜ…それで?お前の願いとやらは?」
ゴーストノート「それはね。ただ普通に、普通の魔剣として生きたいなあって。幾ばくのものに宿れる、ありふれた魔剣少女でありたかったな…って。そして───────」
ロウド「おいおいマジかよ。」
ピリピリと伝わってくる強力な魔力。
EDENの魔剣使いは更なる団体を連れて帰ってきたのだ。
EDEN魔剣使い「あの魔典はEDENが回収しなくては‼」「他の者の手に渡ってなるものか‼」「捕らえよ‼捕らえよ‼」
EDENの魔剣使いたちが一斉にアンロックする。
魔力震で息が苦しくなる。
ロウド「なあよおゴーストノートちゃん。お前には世界の記憶が記されているんだろう?」
ロウドはゴーストノートをアンロックする。
ゴーストノート「そう、でも今気にすることじゃない‼」
ロウド「いいや関係あるね‼世界の記憶があるなら、世界のありとあらゆる術式を網羅しているはずさ‼きっと使っちまったら死ぬほど強いんだろ‼」
ロウドはあまりに不利な状況に冷静さを失っていた。
ゴーストノート「違う‼そうじゃなくて…」
ロウド「ごめんよ‼もう時間がないんだ‼開くぞ‼」
ゴーストノート「だめーーーーーっ‼」
EDEN魔剣使い「よせーーーーッ‼」
刹那、まばゆい真白の閃光がほとばしる。
ロウド「あ…れ…なんだか…眠…くなって…」
フライパン「私…も…なぜ…?」
EDEN魔剣使い「この…阿呆…が…‼」
次々と眠り落ちて行く人々。
ゴーストノートは弾けて飛んで行く。
ゴーストノート「私の願いは…"私のことを忘れないでいてほしい"ということ…いつか鍵が開けられて、消えて行くだけの私のことを…」
ゴーストノートは再び地上に落ちる。
元居たように、見知らぬ林のなかで。
ゴーストノート「でも、それは叶わぬ願い。またみんな、私のことを忘れてしまうの。私に記された"世界の記憶"を守るために…」

ロウド「…あれ、俺たちこんなところで何してたんだ?」
ロウドは目を擦って海岸を見渡す。
フライパン「ピクニックよ。二人きりの。ほら、お弁当。」
ロウド「お、気が利くね。サンキュ。」
フライパン「当然よ。大切なダーリンとのデートだもの。」
二人は夕暮れを見送った。



ゴーストノート「本当はね、このゴーストノートという名前も、本当の名前ではないの。だって本当の私は鍵穴の向こうだから。12番目の魔剣使い様…もう、聞いていないのだろうけど…」
彼女は、束の間の"魔剣少女としての人生"を、追憶する。